日本の製造業において加速する国内回帰
─その背景にある変化と課題とは?

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リーマンショック以降、製造業の間ではコスト削減などを目的に海外へ生産拠点を移す動きが主流でしたが、近年では世界的なサプライチェーンの混乱や円安の進行などを受け、生産拠点を国内に移す国内回帰の動きが見られています。

本記事では、製造業の国内回帰について、その背景などを紹介するとともに、国内回帰が進む日本の製造業が抱える課題を解説していきます。

製造業の間で進む国内回帰の動き

経済産業省が公表した「2023年版ものづくり白書」では、以下の通り2022年度の直近1年間における企業の生産拠点の移転動向がまとめられています。

注目すべきは、海外生産の主要な移転先であった中国・香港のデータです。中国・香港に移転した企業が65社なのに対し、中国・香港から生産拠点を国内に移転した企業は100社となっており、国内へ回帰する企業のほうが多くなっていることが分かります。

ASEAN諸国など、国内回帰よりも海外へ移転する動きが活発に見られる地域もありますが、全体で見ると海外移転よりも国内回帰を進めている企業のほうが多いことがわかります。

実際、帝国データバンクが2022年12月から2023年1月にかけて実施した「国内回帰・国産回帰に関する企業の動向調査」によれば、海外調達や輸入品を利用している企業のうち、40%が製造拠点の国内移転や国産品への変更など、なんらかの対策を実施・検討しているとのことです。海外移転が主流だった以前と比べて状況は大きく変化していると言えるでしょう。

※出典:帝国データバンク レポート『国内回帰・国産回帰に関する企業の動向調査』

製造業の間で国内回帰が進んでいる背景

製造業の間で見られる国内回帰の背景には、主に以下のような要因があると考えられています。

グローバルサプライチェーンの脆弱性の顕在化

新型コロナウイルスの感染拡大により顕在化したのが、グローバルサプライチェーンの脆弱性です。当時は世界各地で工場の稼働停止や物流の停滞が発生し、部品を調達できず生産停止に追い込まれた企業も少なくありませんでした。

この一連の出来事によって、海外拠点に生産を依存する体制は生産工程上の大きなリスクを伴うということが再認識されました。加えて、米中間の貿易摩擦や地域紛争といった国際情勢の不安定化も、海外生産のリスクを高める要因となっています。

こうした地政学的なリスクは予測が難しく、企業努力だけでは対応が困難です。国内に生産拠点を置けば、こうしたリスクを回避し、より安定した生産体制を築くことが可能なため、国内回帰がトレンドとなっているのです。

人件費の高騰

また、海外生産の魅力であった、安価な労働力という前提も変化しています。近年では、円安の進行に加え、新興国の経済成長によって、特にアジア諸国の人件費が高騰しています。

日本貿易振興機構(JETRO)の調査によると、2013年から2023年の10年間で、在アジア日系製造業の作業員の平均月給は、中国で約1.5倍(375ドル→576ドル)、カンボジアでは約2.5倍(101ドル→257ドル)にまで上昇しています。人件費が高騰した結果、必ずしも海外拠点での生産がコスト面で有利とはいえなくなってきているのです。

製造業・作業員の基本月給(平均値)の比較
地域国名2013年2019年2023年
東アジア中国375493576
東南アジアミャンマー71159112
ラオス137160129
カンボジア101196257
ベトナム162236273
フィリピン248236271
タイ366446410
インドネシア234348377
マレーシア429414451
南アジアスリランカ130130104
バングラディシュ86104114
パキスタン154129144
インド217278337

※出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)『海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)』
 表中単位はドル

政府および地方自治体による国内投資促進

加えて、日本政府や地方自治体も国内回帰の動きを後押しするため、補助金の交付や制度の見直しなどを進めています。

コロナ禍を通じて、国民生活や経済安全保障において重要な製品供給を海外に依存するリスクが明らかになったことで、政府はサプライチェーン強化を目的に「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」を交付。公募を行い、半導体関連の製品や電動車関連の製品のほか、医療用ゴム手袋や抗原検査キットを製造している企業などに対して、国内における生産拠点の設備導入費等の補助を行いました。2023年にはウクライナ情勢の影響を踏まえ、原材料の安定供給を実現するため、国内の生産拠点の整備を行う企業を支援する補助金を公募。7件の事業が採択されています。

さらに地方自治体も、生産拠点の建設費や電気料金を補助したり、不動産取得税に対する補助率を引き上げたり、魅力を発信するセミナーを開催するなどして、企業の誘致を積極的に行っています。

政府や地方自治体によるこうした支援は、国内回帰に伴う企業の初期投資負担や、投資判断に迷う企業の一助として機能しており、国内回帰の検討を後押ししています。

生産拠点を国内に移すことで得られるメリット

生産拠点を国内に回帰させることで、企業としては以下のようなメリットが得られます。

地政学的リスクの回避によるサプライチェーンの安定化

先述の通り、海外拠点での生産には地政学的リスクが伴います。部品の調達や製品供給が滞ると、生産計画に大きな支障をきたします。生産拠点を国内に構えれば、海外生産で起こり得るトラブルを回避することが可能です。

また、部品の調達から製品の出荷までの物流を国内で完結させることで、リードタイムの短縮も期待できるでしょう。市場の需要変動に対しても迅速かつ柔軟に対応できるようになるため、機会損失の防止につながるというメリットもあります。

品質管理の向上およびブランド価値の強化

品質の高さも日本国内で生産を行うことで得られる利点の一つです。国内拠点でのものづくりなら、厳格な品質基準に基づいた生産管理・品質管理によって高品質な製品を安定して生産することができます。

高品質な製品を製造することで、消費者からの信頼性を高めるだけでなく、製品や企業全体のブランド価値向上の効果も期待できるでしょう。
「メイド・イン・ジャパン」ブランドは、企業にとっても大きな武器となりえます。

輸送費の削減および環境負荷の低減

海外から製品や部品を輸送する場合、船や飛行機などを利用する必要があるため、燃料費などの輸送コストがかかってしまいます。国内製造なら、こうした輸送コストを削減でき、企業の収益改善も期待できるでしょう。

同時に、輸送距離の短縮はCO2排出量の削減にもつながります。近年では特に、環境への配慮が企業の社会的責任として強く求められており、CO2排出量削減はサプライチェーン全体で重要な経営課題の一つとされています。

国内回帰は、コスト削減と環境負荷低減を同時に実現できる有効な手段として、企業のサステナビリティ経営の観点からも注目されているのです。

国内回帰が進むなかで対策が必要な課題

ここまで、国内回帰によって企業が得られるメリットを紹介してきましたが、国内回帰が進むなかで課題も指摘されています。ここからは、国内に拠点を移す際に課題となる2つの点について解説していきます。

人手不足

少子高齢化などの影響で日本の労働力人口は減少傾向にあり、多くの産業で人材の確保が難しくなっています。製造業においても人手不足は深刻で、人材確保および定着は製造業全体の重要課題として位置づけられています。

自社で人材を雇用・育成することが困難になる中、人手不足に対する解決策の1つとして、ロボット・専用機の活用やDX推進による自動化・省人化などが挙げられます。しかし、こうした自動化に割くリソースがないという企業も少なくありません。こうした背景から、製造受託サービスを活用するという選択肢に注目が集まっています。

なお、製造受託については、以下のページで詳しく解説しています。製造受託のメリットや代表的な製造受託であるOEMとODMの違いなどについて興味のある方はあわせてご参照ください。

製造受託のメリットとOEM・ODM・EMS・PBの違いを分かりやすく解説

設備投資の判断の難しさ

国内に新たな生産拠点を設ける場合、多額の設備投資が必要になります。大規模な投資に踏み切るのは、経営上容易な判断ではありません。

工場を建設するための土地の確保も、地価が高く用地が限られている日本では大きな課題です。生産設備や試験装置なども新規に導入する必要があるため、企業の財務に与える負担の大きさは無視できません。

新たな生産体制の立ち上げが不透明ななか、工場・設備に投資が必要という経営判断を迫られるため、国内拠点の新設になかなか踏み出せない企業も多いのが現状です。

国内一気通貫で高品質なものづくりを実現できるEMSソリューション「WILL ONE」

国内回帰にまつわる課題の解決手段として注目されているのが、国内のEMS(電子機器受託製造サービス)です。既に製造拠点や設備、人員、ノウハウを持つ国内のEMS事業者に委託することで、新たに設備投資をすることなく、国内生産の立ち上げを実現できます。

「WILL ONE」は、国内一気通貫のEMSソリューションです。試作から量産まで対応できる一連の設備を国内4拠点の自社工場に完備。設計、部品調達、基板実装、組み立て、評価試験、出荷、保守サポートまで、すべてを国内一気通貫で行えるため、高品質かつスピーディーな製造が可能です。

また、産業用電子ブザーやトラック用電子基板などの小物製品から、自動織機用制御ユニットや生産設備などの大型製品まで設計・製造実績も幅広く、多品種変量や小ロット生産にも柔軟に対応しています。

国内回帰をご検討されている方は、ぜひ一度当社までご相談ください。お客様のご要望に応じた最適なサポートを提供いたします。

当社のEMSソリューションについては、以下のページで詳しく紹介しています。あわせてご参照ください。

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まとめ

コロナ禍を経て海外拠点の地政学的リスクが問題視されるようになったことで、生産拠点の国内回帰の動きが盛んに見られるようになりました。

生産拠点を国内に置けば、サプライチェーンを安定化させるとともに、「メイド・イン・ジャパン」ブランドの高品質なものづくりが実現できます。しかし、人手不足や設備投資判断の難しさなど、国内に拠点を移転させるにあたって課題があるのも事実です。こうした問題を解決する手段として、EMSなどの製造受託サービスに注目が集まっています。

国内回帰を検討しているものの、人手不足などの問題でお悩みの方は、製造受託サービスの活用を検討してみてはいかがでしょうか。