近年、自然災害や世界情勢の変化、サイバー攻撃などのリスクが高まっています。製造業においては、有事の際に
- ・部材調達を特定の地域に依存しており、供給が途絶えてしまう
- ・設備や工場のトラブルで自社の生産が停止してしまう
- ・自社・他社の状況を把握できる仕組みが整っていない
など不安を感じている現場や各部門の方も多いのではないでしょうか。
BCP(事業継続計画)の重要性は理解していても、何から取り組めばよいか、どこまで備えれば十分なのかが分からないというケース、あるいは部門をまたいだ連携やサプライヤーへの対応が不十分で、計画作りが思うように進まないケースが見られます。
本コラムでは、こうした悩みや課題を解消するために、自社のリスクや課題の整理方法から、製造業のBCP策定におけるポイントまで分かりやすく紹介します。
目次
BCP(事業継続計画)とは
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BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)とは、企業が緊急事態に備え、重要な事業をできるだけ中断させずに継続し、万が一中断した場合でも迅速に復旧することを目的とした計画です。自然災害や大火災、感染症のパンデミック、テロ、大規模なシステム障害など、さまざまなリスクを想定し、平常時に行うべき準備や体制整備、非常時の対応や復旧方法などをあらかじめ定めておきます。
製造業では、BCPを策定して運用することで、資材の確保や早期復旧、情報共有の迅速化が進み、調達・生産・物流・管理など多くの部門の不安や業務停滞リスクを軽減できます。さらに、各部門がそれぞれ以下のような視点で取り組むことが効果的です。
| 部門 | 業務停滞リスク・対策の例 |
| 設計 | 部品の標準化や共通化により、代替対応 |
| 調達 | 購買先の拡充や見直しによって、調達リスクを分散 |
| 生産 | 設備損壊を未然に防ぐ施策や、もしもの時の復旧プランを事前に検討 |
| 物流 | 非常時でも物流が止まらない仕組みや管理体制の整備 |
| 管理 | システムやデータの一元管理・保全体制の強化 |
BCPとBCMの定義・違い
BCPと混同されやすい言葉に、BCM(Business Continuity Management:事業継続マネジメント)があります。BCPは、「緊急時に何をすべきか」を定めている一方で、BCMは「どのように計画を実行し、維持・改善していくか」といった、プロセス全体を指します。
つまり、BCP策定を含めて事業継続を実現するための総合的なマネジメントがBCMです。リスク管理や事業継続力を高めるには、BCPとBCMの両方の視点が欠かせません。

大企業と中小企業のBCP対策の違い
日本の製造業で、大企業と中小企業ではBCP対策の取り組み方や対策状況に大きな違いがあります。
下記の図は、大企業と中小企業のBCP策定率の推移の過去6年のデータです。2025年時点におけるBCP策定率は大企業で38.7%、中小企業では17.1%といずれも過去最高の水準に達しています。
両者とも年々策定率を伸ばしていますが、その差は依然として大きく残っています。必要性が高まる一方で、企業規模による取組状況の格差が広がっていることが分かります。

こうした違いは、日本の製造業が大手メーカーと多くの中小サプライヤーで構成されている産業構造の特徴ともいえます。
大企業は、サプライチェーン全体の強化や調達先の分散、取引先へのBCP要件の提示など、幅広い対策が可能です。一方で中小企業は、限られた人員や資金の中で工夫を重ねているものの、十分な対策を実施することが難しいという現状が伺えます。
製造業におけるBCP対策の課題

製造業においてBCPを策定する際、中小企業では特に次のような2つの課題に直面することがあります。
サプライチェーンを脅かすリスクの多様化
上述の通り、近年、サプライチェーンを脅かすリスクが多様化・複雑化しています。それにより、企業にとってBCP策定時にどのリスクを重視し、どのような対策を講じるべきか判断することが難しくなっています。
いわゆる「半導体不足」に代表されるように、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大時には、中国・欧米間との部品や部材の物流が寸断され、日本の工場で減産または稼働停止する例が見られました。現在も各国の関税施策、地域紛争などサプライチェーンに影響を与える事象は多く、こうした事態がいつ発生するかは不透明です。
また、日本は災害大国であり、地震、津波、台風、大雨、洪水など、工場や設備が被害を受け、生産停止へ追い込まれる危機に常に瀕しています。
想定を上回るようなトラブルに遭遇したり、想定していなかったような非常事態に陥ったりするケースも多く、全てのリスクを考慮してBCPの案を策定することは困難と言えます。
人材・設備・資金・情報のリソース不足
対応すべきリスクは多様化している一方で、活用できる経営リソースが有限であることも課題の一つです。特に投資が難しい中小企業では、BCPの運用に必要な4つの経営リソースの確保が困難です。
下記の表に、それぞれのリソースで直面する主な課題をまとめています。
| 経営リソース | 主な課題 |
| 人材 | 少人数体制で教育や訓練が行き届かず、人員やスキルが不足しやすい |
| 設備 | 設備投資・備蓄コスト・スペース制約が大きく、備えや設備更新が進みにくい |
| 資金 | 投資余力や予算確保が難しく、復旧やBCP準備の費用捻出が大きな負担となる |
| 情報 | ノウハウ・復旧計画不足やシステム化の遅れで、情報共有・迅速な対応が難しい |
限られた経営リソースで、いかにしてBCPおよびBCMを実現していくかが課題となります。
BCP策定で得られるメリット

BCP策定は、中小製造業にとって緊急時のリスク軽減だけでなく、日常の事業運営にも大きなプラスとなります。
事業縮小・倒産リスクの軽減
BCP策定することで、災害など予期せぬ事態が発生しても、事業資産の損失を最小限に抑え、中核事業の継続や早期復旧が可能になります。
実際、東日本大震災ではBCP策定していた企業が、安否確認や代替調達、復旧体制の整備によって、他社よりも早く事業を再開できた事例が多く報告されています※¹。一方、不十分だった企業は、補助金で工場を再建しても売上回復が計画通りに進まず、資金繰りの悪化から事業縮小や倒産に至るケースも見受けられました※²。
参考:※¹ 内閣府 防災担当『東日本大震災に関する企業活動への影響』
※² 帝国データバンク『【震災から11年】「東日本大震災関連倒産」動向調査(2022年)』
取引先からの信頼獲得と差別化
トラブルが発生する前から、事業継続への備えを整えておくことで、顧客や取引先から「信頼できるパートナー」と評価されやすくなります。
特に、BCP(事業継続計画)を具体的に策定し、その内容や取り組みを積極的に公開することで、自社の危機管理能力をアピールでき、他社との差別化や新規取引の機会拡大、既存取引の関係強化にもつながります。
従業員の安全と働きやすい環境づくり
従業員の安全確保を最優先にしたBCP策定は、企業の事業継続力を高めます。非常時には、従業員が冷静かつ安全に行動できる環境が整い、落ち着いて状況を判断し、適切な現場対応が可能となります。
また、平常時からBCPの計画を立てることで、業務の効率化やチームの結束力強化にもつながります。日頃からの意識向上や環境整備によって、万一の際にもスムーズな連携や迅速な対応が実現でき、日常的にも働きやすい職場環境づくりに結びつきます。
中小企業におけるBCP策定・運用の5ステップ
中小企業庁が発表している『中小企業BCP策定運用指針』によると、BCP策定から運用までのフローには以下の5つのステップがあります。

STEP 1:BCPの基本方針と目標の明確化
危機が起きたとき「何を最優先で守るか」を会社全体で確認するのが大切です。
- ☑ 経営目標を明確にし、事業継続の指針を設定する
- ☑ 従業員や顧客の安全・健康を優先する
- ☑ 安定供給や取引先との信頼維持につながる行動方針を決める
STEP 2:重要業務の優先順位設定
事業の中心となる業務や製品を整理し、万が一の時に迅速に対応できるように備えておきます。
- ☑ 最優先で守るべき製品・サービスを1つ決定
- ☑ 緊急時は優先順位の高い業務から再開できる体制を準備
STEP 3:被害リスクと影響分析
どんなリスクがあるか、具体的にシミュレーションすることで、対策が立てやすくなります。
- ☑ 災害やトラブル時の被害を事前に洗い出す
- ☑ 設備損壊や情報通信インフラ停止時の業務への影響を評価する
STEP 4:危機に備える事前対策
事前対策は、危機発生時の混乱を防ぐために不可欠です。複数の分野について、必要な備えを行います。
- ☑ 人材:安全確認の仕組みや代替要員の確保を行う
- ☑ 設備:備品・部材の確保、主要設備の固定・保護を進める
- ☑ 資金:復旧活動や備蓄に必要な予備費・資金計画を立てておく
- ☑ 情報:重要データのバックアップや通信手段の整備を行う
STEP 5:緊急時の役割分担と訓練・見直し
日頃から緊急時を想定した管理体制や訓練を習慣化することで、慌てずに行動ができます。
- ☑ 対応責任者・連絡先・役割分担を文書化して周知
- ☑ 年に一度は訓練や見直しを実施し計画の精度を保つ
製造業のためのBCP策定・実践のポイント

中小製造業がBCP策定後に定着・運用していくには、実行可能な対策を、自社の課題や特性に合わせて講じることが重要です。
安否確認・情報伝達体制の強化
有事の際には、全従業員の安否を速やかに正確に把握することが最優先となります。そのため、安否確認の専用アプリや電話連絡網など、複数の手段を組み合わせた仕組みを整備しておくと安心です。
さらに、訓練や手順の見直しを日常的に行い、混乱せずに対応できる体制を整えることで、情報が確実に全員へ伝達される仕組みが実現します。
資金確保と保険によるリスク分散
資金(手元資金や融資枠)の確保や、損害保険・利益補填保険などへの加入を検討しましょう。あわせて、条件見直しや公的支援制度の情報収集・活用も事前に行っておくことが大切です。
万が一、突発的な事象によって売上が減少する場合や、修繕や復旧に多額の費用が発生する場合、十分な資金の備えがなければ事業継続は困難になります。
データ保護とバックアップ徹底
各種データは製造業の事業運営に欠かせない基盤です。稼働状況や取引情報などが失われると、生産や顧客対応に深刻な影響が生じ、事業継続が困難になります。
したがって、定期的にバックアップを行い、クラウドや遠隔地サーバーなど複数箇所にデータ保管しておくことで、消失リスクを抑えられます。さらに、復元テストの実施や、アクセス権限管理・セキュリティ対策も同時に行い、データの安全性を確保しましょう。
代替工場・設備・部品の事前確保
サプライチェーンの途絶や主要な工場・生産設備の停止に備えて、代替となる生産拠点や設備・部品を事前に確保しておくことは非常に重要です。協力工場との連携や外部委託先リストの整備を行い、緊急時にも生産を迅速に移管できる体制を準備しておきましょう。
また、設計の段階から、特定メーカーや部品への依存を避け、複数選択肢が確保できるような「代替可能な設計」を心がけることがポイントです。これにより、供給トラブル時でも迅速な部品調達や他拠点での生産がしやすくなります。
設備面では、必要な備品・部材を十分に備蓄するとともに、主要設備の固定や保護対策も計画的に進めましょう。さらに、優先的に復旧すべき工程や手順を文書化しておくことで、いざという時にも混乱せずスムーズな対応が可能となります。
製造業のBCP対策の手段としての「製造受託」

上述した通り、製造業におけるBCP対策では、代替先となる工場や設備、あるいは調達先を確保することがポイントです。しかし、リスクヘッジに必要なリソースを自社のみですべてを保有・管理することが困難な場合はどうすればよいでしょうか?
その解決策の一つとなりうるのが、OEM(他社ブランド品の製造)やEMS(電子機器の受託製造)などの「製造受託」サービスの活用です。ものづくりの一部または全部を他社に委託することで、新たな設備投資をすることなく、有事の際にも生産を継続することが可能になります。
また、製造受託サービスを手掛ける事業者のなかには、設計の段階から対応できる事業者も増えており、設計段階から複数調達先に対応できる仕様や代替部品を活用しやすい設計にすることでサプライチェーンリスクに強いものづくりが実現します。さらに、幅広い購買ネットワークを持つ受託業者であれば、その調達網を活用することで、サプライチェーンが脅かされた場合でも部材供給が安定する可能性が高まります。
製造受託サービスの活用は、柔軟な生産体制を構築できるだけでなく、コストや品質面でもメリットがあります。詳しくは、「コラム記事:製造受託のメリットとOEM・ODM・EMS・PBの違いを分かりやすく解説」もぜひご確認ください。
製造受託サービスWILL ONEで進めるBCP対策
当社グループが手掛ける「WILL ONE」は、設計・調達・製造はもちろん、評価・試験、出荷・保守まで、国内ワンストップで対応する製造受託サービスです。
ホタルクス社のメーカーとしての技術力を生かした設計や、デバイス販売テクノ社の電子部品商社としての調達ネットワークで、サプライチェーンの安定化に貢献いたします。生産領域においては、福島・滋賀・大阪・大分の国内4拠点で高品質なものづくり体制を展開しており、お客様の代替工場としての活用が可能です。
当社グループの柔軟なものづくり力により、お客様のサプライチェーンの安定化、リスク分散に貢献いたします。BCPの策定やものづくり体制の見直し、外部サービスの活用を検討中の方は、ぜひご気軽にご相談ください。
まとめ
BCPの策定や運用は、「計画を作って終わり」になりがちですが、本来の意味や効果は、日々の現場で着実に実践し、定期的な見直しと改善を繰り返すことで発揮されます。
本記事でご紹介したステップや具体策は、限られた人員・設備、リソースの中でも実践可能なポイントばかりです。外部リソースやパートナー企業との連携も活用し、できることから一歩ずつ取り組むことが、事業の継続力を高める近道となります。
ぜひこれを機に、自社に合ったBCPの強化・見直しを始めてみてください。