消費者のニーズが多様化し、製品のライフサイクルの短期化が進む近年、製造業を取り巻く環境はめまぐるしく変化しています。そんな中、1950年代に脚光を浴びた「VA/VE(価値分析・価値工学)」という手法に再び注目が集まっています。コストと品質のバランス最適化を実現するにあたり、VA/VEの基本的な考え方は大いに役立つでしょう。
そこで本記事では、VA/VEについて、基本的な定義やそれぞれの違いを紹介するとともに、再注目されている背景やVA/VE実践時のポイントなどをわかりやすく解説します。
目次
VA/VEとは?

現代では、VAとVEを同じ文脈で使うこともあるものの、厳密には両者の定義は異なります。
VA/VEの定義、両者の違い
VAとVEはいずれも、製品やサービスの価値を最大化するための体系的な手法です。
「VA(Value Analysis:価値分析)」は、GE(General Electric)社のローレンス・D・マイルズ氏によって開発された、製品やサービスの価値を向上させるための手法です。その後、アメリカ国防省がVAの手法をさらに発展させ、それを「VE(Value Engineering:価値工学)」と名付けました。
現代のビジネスシーンにおいては、両者を明確に区別せず、同じ意味の言葉として使うケースも少なくありません。両者を別の概念として明確に区別する場合、その違いとなるのが、対象となる製品・サービスのフェーズです。
例えばトヨタ自動車では、量産開始後の製品に対する改善活動をVA、設計・開発段階の製品に対する改善活動をVEと定義しています。対象とする製品の開発フェーズによって、呼称を使い分ける場合があると理解しておきましょう。
※参考:トヨタ企業サイト|トヨタ自動車75年史|研究開発支援|原価企画・質量企画・部品標準化
VA/VEが近年再び注目を集めている理由
VA/VEは、1950年代前後に生み出された手法ですが、現在、再び注目が集められている背景には、以下のようなことがあると考えられています。
(1)コスト×品質のバランス適正化に対する意識の高まり
現代、消費者ニーズの多様化により、製品ライフサイクルの短期化が進んでいる一方で、物価高騰に伴い、量産工程にかかるコストは年々増加傾向にあります。このような環境下で企業が利益を確保し続けるには、新製品の迅速な開発と高品質・低コストの両立が必要となりますが、一般的にコストと品質はトレードオフの関係にあり、両立は容易ではありません。
そこで、製品の「価値」に着目し、「機能はそのままにコストを下げる」「コストはそのままにより優れた機能を提供する」といったアプローチをとるVA/VEに注目が集まっています。厳しさが増す競争環境を勝ち抜くための製品開発・ものづくりの手法として、VA/VEの必要性が再認識されているのです。

(2)ESG・SDGs等の社会課題への対応と、急速な技術進化
近年、企業には脱炭素経営や人権尊重など環境・人権課題への対応が求められていますが、これらの取り組みに対するコストの増加が懸念されています。その中で、コスト削減と環境負荷低減を両立した社会的価値の高い製品づくりにおいてVA/VEが注目されています。例えば、従来の素材をリサイクル可能なものに切り替えることや、製造工程のエネルギー消費量を見直す際のアプローチとしてVA/VEの活用が期待されています。
また、AIをはじめとする技術の進化により、VA/VEの可能性は大きく広がっています。AIの活用によって、膨大な代替素材や工法を短時間でシミュレーションし、最適な組み合わせを選定することが容易になりました。さらに、3Dプリンティングや新素材の登場により、製品価値向上のための選択肢も増加しています。過去には技術的に難しかったり、コスト面で見送られたりしていたアイデアも、技術進化によって再評価されるケースが増えつつあります。

VA/VEの目的と基本的な考え方
VA/VEを実践する目的は、製品やサービスの価値向上にあります。

VA/VEの根幹にある考え方が「Value(価値)= Function(機能)/ Cost(コスト)」という式です。VA/VE活動は、価値を最大化させることを目的としています。この式からもわかるように、製品の価値を向上させるためには、以下4つのアプローチが考えられます。
◦ コストダウン型:機能を維持したままコストを削減する
◦ 機能アップ型 :コスト維持したまま機能を向上させる
◦ 複合型 :機能の向上とコストの削減を同時に実現する
◦ 拡大成長型 :コストは上がるものの、それ以上に機能を大幅に向上させる
VA/VEの考え方の例
VA/VE活動においては、「顧客が特に重視する機能」や「コストが多くかかっているポイント」を明確にしながら、適切なプロセスで論理的にアプローチすることが重要となります。
VAでは、分析対象の選定から情報収集・アイデア創出・評価・業者調整・技術検討・提案のまとめ・実行まで、段階的に効率化とコスト削減の方法を検討します。一方、VEでは、機能を明確にし、次にコストと価値を評価し、最後により良い代替案を考えていきます。
炊飯器を例として考えてみます。
| VA(既存製品) | 対象選定 | 炊飯器のどこにコストがかかっているか調べる |
| 現状分析 | ヒーターや内釜の材料、ネジやパネルの種類を見直す | |
| 改善策 | 部品を共通化したり、コストの安い素材に切り替える | |
| 成果 | ご飯の味や使い勝手はそのままで、製造コストを削減する | |
| VE(商品開発段階) | 機能 | おいしくご飯を炊く |
| 機能評価 | 多機能タイマー、特殊調理メニューを無くす | |
| 現状分析 | 部品数を削減し、操作パネルをシンプルにする | |
| 成果 | 機能(おいしく炊く)を強化しつつ、不要な機能を減らす |
必要な機能を見極めて無駄を省くことで、品質を維持しながらコスト削減を実現できます。この考え方は、さまざまな製品や業務の改善にも応用できる重要な視点です。
VA/VE実践時に意識するべきポイント

続いて、VA/VEを実践する際に意識しておきたいポイントをご紹介します。
コスト削減に注力しすぎない
VA/VE活動に取り組むうえでまず理解しておきたいのが、VA/VEの目的はコスト削減ではない、という点です。
先述の通り、VA/VEの目的は、製品価値の向上にあります。コスト削減は価値を向上させるための有力なアプローチのひとつではありますが、コスト削減のみに固執しすぎると、かえって製品の価値を損なう危険性があります。過度なコストカットは、品質の低下や必要な機能の削除につながりかねません。短期的な利益は確保できても、長期的には顧客満足度の低下やブランドイメージの毀損を招き、市場でのシェアを失うリスクの要因にもなり得ます。
コスト削減はあくまで価値を高めるための手段であることを理解したうえで、価値を損なわない範囲で実行することを意識しましょう。
VEの5原則を理解する
VEを効果的に実践するためには、「5つの基本原則」の理解が重要です。
| 原則 | 概要 |
|---|---|
| 使用者優先の原則 | 顧客の要求(本当に求めている要素)を満たす製品・サービスを提供する |
| 機能本位の原則 | 製品やサービスの機能が「何のためにあるのか」を追求し、必要な機能を明確にする |
| 創造による変更の原則 | 現状に満足せず「もっと良いものや方法が必ずある」という信念を持って価値向上を目指す姿勢を持つ |
| チーム・デザインの原則 | さまざまな分野の専門知識や技術を結集し、組織的なチーム活動としてVEに取り組む |
| 価値向上の原則 | 上記の原則を統合し、最終的に顧客が感じる満足度の向上を目指す |
この5原則は、VAにも通じる重要な考え方です。VA/VEを組織的に推進する際には、上記5つの原則をチーム全員で共有し、常に立ち返るべき共通認識として持つようにしましょう。
VA/VE活動を推進する上での課題

VA/VE活動は、企業競争力の維持・向上に欠かせない取り組みですが、実際の現場ではさまざまな課題が顕在化しています。
VA/VE提案のアイデア不足
社内のメンバーのみでVA/VEに取り組む場合、既存の枠組みや過去の事例にとらわれやすく、斬新な発想が生まれにくいという課題があります。業界トレンドや技術革新など、外部の最新知見を十分に取り入れきれていないことで、提案の幅や深みが限定されるケースも散見されます。こうした状況では、多様な切り口や他業種での成功例に学ぶ姿勢がますます重要になります。
社内の意識・風土の問題
VA/VE活動が浸透しづらい背景には、コスト削減の一環と捉えられて新しい取り組みに消極的な組織風土があります。また、部門間の連携も思うように進まないという課題も残るため、社内意識の変革や活動の活性化には、VA/VEの本来の機能を十分に理解し、客観的な視点を意識的に取り入れ、変化への後押しとなる仕組み作りも検討が必要となります。
人材・スキルの不足
VA/VEの推進には専門的な知識や手法、豊富な実践経験が求められますが、そうした人材を自社内だけで確保・育成することは容易ではありません。特に新たな技術や手法の習得には時間がかかり、十分な人員体制が整っていない企業も多く存在します。必要に応じて専門的な知見やノウハウを柔軟に取り入れることも、中長期的な活動の質向上に寄与します。
~ 時には外部に知見を求めることも重要 ~
VA/VE活動を成功させるためには、外部の専門的な知見を積極的に取り入れる姿勢も重要です。社内の人間だけでの改善には、どうしても限界がありますが、外部から意見をもらうことで、これまで気づかなかった改善点が見つかることも珍しくありません。外部から新たな視点を取り入れることができれば、さらなる改善が期待できるでしょう。
VA/VEの実践をサポートするEMSソリューション「WILL ONE」

先述の通り、VA/VE活動を成功に導くにあたり、豊富な知見を持つ外部パートナーの存在は大いに役立ちます。
「WILL ONE」は、日本のものづくりを支援するウイルテックグループの人財基盤を活用した、設計から製造、そしてアフターサービスまでを一気通貫で対応するEMSソリューションです。EMS事業で培った専門知識やノウハウをもとに、設計・調達・生産が連携したVA/VE活動により、機能・コストのバランスを考慮した提案を行っています。
国内外200社を超える調達ネットワークを駆使し、品質・性能を維持しながらコスト削減に貢献できる代替部品を選定。量産を見据えた基板レイアウトや部品配置、過剰品質の見直しといった改善策をもとに、トータルコストの削減を提案しています。EOL(生産終了)部品に対する迅速な調査・提案もお任せください。
また、福島や滋賀などの国内工場の徹底した品質管理体制のもと、高品質な製品製造と安定供給を実現しています。多種多様な生産・検査・評価設備の活用により、試作から量産までの評価・改善で、製品の信頼性・安全性を高める提案も可能です。レーザー溶着をはじめとした工法開発にも取り組んでおり、柔軟な設計開発ソリューションにより、製品の付加価値向上へ貢献いたします。
VA/VEをご検討されている方や、生産コストや製品品質でお悩みの方は、当社までお気軽にご相談ください。当社のEMSソリューションについては、以下のページで詳しく紹介しています。あわせてご参照ください。
▶トップページ
まとめ
トレードオフの関係にあるコストと品質のバランスをいかにして適正化するかが重要視されている現代において、製品の価値向上を目指すVA/VEが再び注目を集めています。
VA/VEの手法をうまく活用すれば、製品の価値を上げ、商品競争力を高められるでしょう。ただし、VA/VEを実践する際には、自社だけでは限界があります。より効率的なコスト削減・機能向上を実現するためにも、時には製造受託サービスなどを活用し、外部の知見を取り入れることも重要です。